肥満患者の手術のリスクは2倍以上!?肥満患者のリスクと根拠

手術を受ける患者さんには様々なタイプの人がいますが、中には体重が重い「肥満体型」の人もいます。

肥満体型の人の手術はハイリスクと言われているので、「術前にBMIのチェックはしているけど、なぜハイリスクなのか分からない」という人もいるのではないでしょうか?

肥満体型の人は一般の人と比べると、数倍近くもリスクた高くなってしまいます。

今回はそんな肥満患者の手術のリスクと根拠について見ていきましょう。

肥満の基準はBMI25以上

手術を行う際には、呼吸機能や心機能などの術前検査を行いますよね。

術前検査の中には身長と体重も測定しますが、この身長と体重からBMIが算出されます。

BMIの計算方法は以下の通りです。

BMI= 体重kg ÷ (身長m)²

このような計算方法でBMIを求めることができますが、入院時に測定された身長と体重からBMIも自動で算出され、カルテ上で見ることができる職場がほとんどです。

BMIの数値が25以上であれば肥満と評価され、手術に関してもリスクが高くなると予測することができます。

肥満体型は呼吸機能を低下させる

肥満の基準はBMI25以上とされていますが、肥満体型の人は術前評価でもリスクの高さが分かります。

術中のリスクを予測して回避するためにも、術前検査の結果をチェックしておくことが大切です。

肥満は低酸素血症のリスクが高い

肥満体型になると胸壁や腹壁などに脂肪が蓄積した状態になります。

蓄積した脂肪が胸郭への過重や横隔膜を挙上するため、機能的残気量や全肺気量が減少していることが考えられます。

機能的残気量

全肺気量ー(1回換気量+予備吸気量)=機能的残気量

機能的残気量は予備呼気量+残気量を足した合計ですが、安静呼吸で息を吐いた時に肺の中に残っている空気のことを指します。

この残っている空気によって呼気時にも肺胞に流れる血液のガス交換ができるので、このような名称になっています。

また、安静呼気の後の努力して吐き出せる空気量を予備呼気量と言います。

予備呼気量が末梢気道の閉塞により排出できずに肺の中に残ってしまうことをクロージングボリューム言います。

このクロージングボリュームが原因で、呼気時に気道閉塞を起こし、低酸素血症に陥りやすいのです。

肥満と呼吸器の合併症

肥満は呼吸機能の低下をもたらすことがありますが、呼吸機能の低下だけでなく合併症を引き起こしている危険性もあります。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の人も多い

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)の病名は聞いたことがある人も多いと思います。

これは、眠っている間に呼吸が止まるという病気ですが、10秒以上の気流停止を無呼吸の基準とされています。

この無呼吸状態が1晩に30回以上、または1時間に5回以上であれば睡眠時無呼吸症と診断されることが多いです。

しかし、この無呼吸症候群は寝ている間に見られる症状なので、自覚をしている人は少ないのが現状です。

肥満の人は無呼吸症候群が起こりやすい

肥満体型の人は、首回りの脂肪が気道を圧迫することで気道閉塞を起こし、無呼吸症候群になりやすいと言われています。

症状としては、BMI30以上、日中にひどい眠りに襲われるなどが挙げられますが、自覚がない人も多いため、睡眠時無呼吸症候群の可能性も考慮しておくことが大切です。

循環器系の合併症も多い

肥満の人の合併症として循環器系の病気が多いことも特徴です。

  • 虚血性心疾患
  • 高血圧
  • 心不全

これらが肥満の人に多く見られる循環器系の合併症ですが、高血圧の既往歴がある患者さんは多いですよね。

肥満の人は標準的な体型の人と比べると、約2〜3倍も多く高血圧症にかかると言われています。

これは肥満と血圧が深く関係しているからです。

肥満が血圧を上昇させる

肥満の人は食事摂取量も人より多く、その分塩分も過剰に摂取している傾向にあります。

そのため、体内にはナトリウムが過剰に存在していることが考えられます。

また、食事摂取量が多い肥満の人はインスリンも過剰に分泌され、インスリンによってエネルギーを溜め込み脂肪が増えてしまいます。

このインスリンの動きによって、腎尿細管でのナトリウムの再吸収が亢進するため、血液中のナトリウムが増加してしまいます。

血液中のナトリウムを薄めるために血管内に水分が流動することで、全体の血液量が増えることで血圧が上昇するのです。

カテコールアミンも血圧上昇の原因

そのほかにも、インスリンによって交感神経が刺激され血中にカテコールアミンが放出されます。

カテコールアミンは末梢血管を収縮させる働きがあるので、血圧が上昇します。

このように肥満によって血圧が上昇し、高血圧症になってしまうのです。

高血圧が心疾患を招く

高血圧状態が続くと心臓に負担がかかってしまい、心機能の低下から虚血性心疾患や心不全などを招くのです。

肥満患者さんのオペの時は、心疾患の既往歴もないか確認することが大切です。

また、心機能検査の結果もチェックしておきましょう。

腹腔鏡での手術はハイリスク

肥満体型の手術はリスクが高いですが、特に腹腔鏡で行われる手術はハイリスクになります。

リスクが高い患者さんの場合は、腹腔鏡ではなく開腹手術の選択が取られますが、最近では腹腔鏡で行われることもあります。

腹腔鏡で深部静脈血栓症のリスクが2倍以上

深部静脈血栓症とは、手術室で注意が必要な合併症の一つですが、四肢の筋膜下静脈で血栓が作られてしまう疾患です。

通常であれば、ふくらはぎがポンプの役割を果たして血液を循環させていますが、手術などによって長時間同一体位や静止状態になってしまうと血流が悪くなり、血栓ができてしまいます。

一般的な体型の人であっても、手術時の深部静脈血栓のリスクはありますが、肥満体型の人ではさらに2倍以上も高くなると言われています。

腹腔鏡による炭酸ガスが要因の一つ

腹腔鏡では腹腔内の術野を確保するため、炭酸ガスを注入しながら手術が行われます。

炭酸ガスによって腹壁を持ち上げて手術が行われますが、この炭酸ガスが腹部の下大静脈を圧迫することによって下肢の血流が悪くなり、深部静脈血栓症が起こりやすいのです。

肥満体型の患者さんの場合は、リスクファクターが複数存在していることも多いので一概には言えませんが、血管の周りの脂肪によって血管が圧迫されやすく血栓ができやすいと考えられています。

そのほかにも、高血圧による動脈硬化によって血栓ができやすい状況であったり、様々な要因が考えられるのです。

仰臥位での手術もリスクが高くなる

手術によっては仰臥位で行われるものも多いですが、肥満体型の人のオペでは仰臥位によってリスクが高くなることも考えられます。

仰臥位になると横隔膜の挙上により酸素飽和度が低下しやすく、機能的残気量も低下します。

そのため、呼気の終わりにも一定の陽圧をかけたままのPEEPで呼吸管理を行うことが有効とされています。

PEEPは呼気の終わりに陽圧をかけること

麻酔器などを見ているとPEEPという項目があります。

このPEEPは呼気の終わりに陽圧をかけ続けることで、呼気の終了時に回路内の圧力が0mmHgにならず、肺胞が潰れない状態になっています。

完全に肺が潰れた状態になってしまうと肺を膨らませるのに力が必要になります。

しかし、PEEPの陽圧によりある程度膨らませておくことで、簡単に膨らませることができるので肺の負担が軽減します

そして、肥満患者さんの仰臥位では、機能的残気量が低下していましたが、このPEEPをかけることによって、肺の中のボリュームが上昇することで機能的残気量が上昇します。

PEEPを利用することによって体内に循環できる酸素の量が増えるということです。

肥満は麻酔にも影響する

肥満体型が身体の機能や手術へのリスクが高いことが分かりましたが、手術で一番大切な麻酔にも影響するのです。

  • ルート確保が困難
  • 血圧が測りにくい
  • 気管挿管が難しい
  • 硬膜外麻酔、脊椎麻酔が難しい
  • 肺合併症が起こりやすい
  • 手術の難易度も上がり、長時間になる
  • 術後の移動が大変

これらが肥満が麻酔に影響してしまう理由になりますが、麻酔と手術は大きく関わっているので同時に見ていきましょう。

ルート確保が困難

肥満の人は全身の脂肪によって血管が見えないことも多いです。

脂肪に埋もれてしまった血管を見つけることも一苦労しますし、しっかりルートを確保することも大変です。

手術によってもルート確保の位置は異なりますが、上腕でそれぞれメインルートと輸血ルートを確保します。

血管が見えない、ルート確保が難しいという場合は、手背を使ってルート確保を行うことも多いです。

血圧が測りにくい

血圧測定用のマンシェットを装着しますが、腕の太さによってはマンシェットの長さが足りない場合があります。

マンシェットのカフ幅は外周の70%が必要になり、幅が狭いと血圧が高く出てしまいます。

正しい数値で血圧測定が行えない場合もあるのです。

肥満体型の人にも使える幅のマンシェットが準備されているか確認しておきましょう。

気管挿管が難しい

全身麻酔の手術では、人工呼吸を行うために気管挿管をします。

肥満患者さんの場合は、頸部や咽頭部にも脂肪が付いている場合があり、挿管困難を起こすことがあります。

そして、挿管後も換気困難な状態になることも

また、挿管前にマスク換気を行いますが、筋弛緩投与後に舌根沈下してしまいマスクでの換気も困難になってしまうことがあります。

BMI26以上の肥満患者さんでは、マスク換気困難は3倍にも増加するため注意が必要です。

硬膜外麻酔、脊椎麻酔が難しい

手術後の疼痛緩和目的で硬膜外麻酔を行う場合や下半身麻酔として脊椎麻酔が行われますが、肥満患者さんの場合は、体位が取りにくく時間がかかってしまいます。

硬膜外麻酔や脊椎麻酔時には、背中の骨の間に注射をさすためにエビのように丸くなってもらう必要があります。

しかし、お腹の肉が邪魔をして体位を取ることが困難なケースが多いです。

また、背中にも肉がついており、通常の針では届かないこともあるので、長めの針を準備しておくことが大切です。

脊椎麻酔に関しては、麻酔がかけられない場合は全身麻酔に移行することもあるので、全身麻酔の準備も必要になります。

肺合併症が起こりやすい

手術時の合併症として肺合併症が挙げられますが、肥満患者さんの場合は、通常の何倍ものリスクがあります

肥満体型の人は、お腹や胸周りについた脂肪により、自発呼吸を行なっている時や全身麻酔での人工呼吸を行なっている最中でも肺が潰れやすく、膨らみにくい状態にあります。

そのため、呼吸がうまくいかず低酸素血症や無気肺などを起こしてしまう可能性が高いのです。

肥満体型の手術の場合は、術後の肺合併症の予防、早期発見のため、術後にX線による撮影が決められている病院も多いです。

手術の難易度も上がり、長時間になる

肥満の人は、当然手術の難易度も通常の手術と比べて高くなり、長時間になってしまいます。

手術が長時間になると、全身麻酔にかかっている時間も長くなるのでリスクが高くなります。

肥満の人の手術では、脂肪が多いため剥離に時間がかかってしまいます。

剥離に時間がかかると手術時間も長くなり、麻酔時間にも影響が出てくるのです。

術後の移動が大変

全身麻酔から覚醒し、術後は手術室のベッドから病棟のベッドへ移動しますが、肥満体型の人の場合、通常のスタッフの倍ほどの人数が必要になります。

入室時は自分で動けるため手がかかりませんが、退室時の移動は大変になるので、あらかじめ声をかけて手伝ってもらうよう協力を仰ぎましょう

このように肥満患者さんは手術に対してもリスクが高く、様々な点に注意しておくことが大切なのです。

肥満患者のリスクを理解するために

「普段は何気なくBMIを見ている」「それほど深く考えたことがない」という人もいるかもしれません。

肥満患者さんの手術は、普通の人と比べると2倍も3倍もリスクが高いので、考えられる危険性などをアセスメントしておくことが大切です。

事前に分かっていると、トラブルが起きた時も慌てずに対処することができるので、しっかり根拠を理解しておきましょう。

基礎疾患と手術の関係の勉強にオススメ

手術を受ける患者さんの中には、基礎疾患を持っている患者さんも多いです。

基礎疾患は手術へのリスクにつながるため、術中管理も難しくなることも。

基礎疾患が手術に与える影響について勉強したい人は、この参考書がオススメです。

患者さんに多い疾患を中心に紹介されているので、リスクアセスメント力を身につけることができます

オペナーシングは年間購読がお得

オペナーシングの年間購読の詳細ページ

オペナーシングはメディカ出版から毎月発行されている専門雑誌ですが、便利な年間購読がオススメです。

オペナーシングを年間購読は下記の3プランがあります。

  1. オペナーシング 12ヶ月分+増刊号2冊+ヨメディカ
  2. オペナーシング 12ヶ月分+増刊号2冊
  3. オペナーシング12ヶ月分

それぞれのプランで値段が異なりますが、送料は無料です。

特に①のプランは増刊号2冊とヨメディカが付いているので、通常で購入するよりもかなりお得です。

ヨメディカとは?

ヨメディカとは、オペナーシングの2010年度以降に発行されたバックナンバーをオンライン上で読み放題できるというものです。

雑誌を持ち歩く必要がなく、オンラインでバックナンバーが読み放題なので出先でもサッと調べることができます。

知りたい情報を検索することもできるので、論文やケースの勉強にも活用できます。

オペナーシングの年間購読の詳細ページ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です