泌尿器科の手術では、経尿道的切除術などのオペが多く行われている病院もありますよね。
特にTURのオペの時には還流液を使用するため合併症を予防するためにもバイタルサインの観察が欠かせません。
オペ室で働いているとTURのオペの際には必ずTUR症候群に気をつけるなどと呪文のように覚えている人もいます。
しかし、実際のメカニズムなどは分かっていないという人も。
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TUR症候群とは還流液が吸収されることによって起こる
TURなどの手術はウロ特有の物品などが多いですよね。
特にTURの手術の際にはウロマチック®️という還流液を使用します。
TURの手術とウロマチック®️については以下の記事内で紹介しているので参考にしてみてください。
TUR反応や水中毒と呼ばれる
TUR症候群とはTUR(経尿道的切除術)のオペの時に起こりやすい合併症ですが、別名では水中毒やTUR反応などと言われます。
これは、TUR-P(経尿道的前立腺切除術)のオペで、広範囲の肥大した前立腺を削る時の出血により血管から還流液が過剰に吸収されることによって引き起こされてしまいます。
血管内に還流液が過剰に吸収されてしまうことによって、低ナトリウム血症などの電解質異常がみられます。
多くは術中にバイタルサインの変動などで症状が見られますが、術後も遅延性に腹膜内外に漏れ出ていた還流液が吸収されることにより起こることがあります。
TUR症候群が起こる原因はオペ時間の長さが関係している
TUR症候群が特に起こりやすい手術としては、TUR-P(経尿道的前立腺切除術)と言われています。
その理由としては、肥大した前立腺を削っていくことで手術時間も長くなり、大量の還流液を使用することが挙げられます。
TUR症候群が発生する条件
TUR症候群が発生する条件としては、以下の通りです。
- 手術時間が90分以上
- 切除重量45g以上、
- 還流圧の設定が高い
TUR症候群が起こるメカニズム
TUR症候群で見られる主な症状は、中枢神経系の症状と心血管系、呼吸器系の症状に分けられます。
中枢神経系の症状
悪心、嘔吐、錯乱、視覚障害、痙攣、昏睡など。
心血管系、呼吸器系の症状
高血圧、低血圧、徐脈、各種不整脈、肺水腫、心停止など。
ウロマチック®️は低ナトリウム血症を引き起こす
TUR症候群では還流液が大量に体内に吸収されてしまうことによって、低ナトリウム血症の症状が引き起こされてしまいます。
この低ナトリウム血症とは、血中ナトリウム濃度が135mEq/l以下になってしまう症状のことです。
血中のナトリウムの基準値は135~145mEq/lなので、血ガスを測定した時の濃度が基準値を下回っていたら低ナトリウム血症が起きているということが分かります。
低ナトリウム血症は、血中のナトリウムの濃度が低くなることによって症状が強く出てきます。
血清Na濃度(mEq/l)と症状
- 145~135(正常)無症状
- 135~125(軽度)無症状なことが多い
- 125~110(軽度)食欲低下、頭痛、傾眠
- 110~105(中等度)悪心・嘔吐、人格変化、昏迷
- 105以下(重度)昏睡、けいれん、死亡
血中のナトリウムが減少してしまうことにより、色々な症状が見られますが、軽度の場合は無症状のことが多いです。
ウロマチック®️が低ナトリウム血症を起こす理由
血漿浸透圧の基準値は285~295mOsm/lであり、血漿浸透圧 = Na×2 + BS/18+ BUN/2.8で求めることができます。
生理食塩水の浸透圧は308mOsl/lです。
生理食塩水の浸透圧の求め方は以下の通りです。
- 生理食塩水=0.9%NaCl1Lの中に、9gの塩化ナトリウムがある。
- NaCl→Na++Cl-となるので、1mM=2mOsm/Lなので154mM→2×154mOsm/L=308mOsl/L9gの塩化ナトリウムは
- Na154mEq.Cl-154mEqであるので浸透圧は308となる。
そして、ウロマチックの浸透圧は165mOsm/Lであり、生理食塩水と比べると低張であるため細胞内に浸透圧が生じてしまいます。
ウロマチックが人間の細胞体液よりも低張であるため、潅流液が細胞内に入り込み細胞内のNa濃度が低くなってしまいます。
そのため、生理食塩水よりウロマチックの方が低Na血症などの電解質異常を起こしやすいのです。
生理食塩水を使う手術ではTUR症候群は減少してきている
TUR症候群による低ナトリウム血症が引き起こされますが、
と思った人もいると思います。
現在、TURisという生理食塩水を潅流液に使用する手術が増え、TUR症候群の低Na血漿が発生する割合も減少してきているといわれています。
しかし、大量の生理食塩水が吸収されることで細胞外液が増加し、肺水腫や高クロール性アシドーシスによる嘔気、嘔吐、精神症状が発症する可能性も指摘されているため注意が必要です。
TUR症候群による低ナトリウム血症のリスクは減少したとはいえ、電解質異常は起こしやすいため注意が必要なのです。
手術中の看護のポイント
脊椎麻酔などの意識がある状態で手術を行う場合は、気分不良、悪心·嘔吐などの訴えがないか観察をしっかり行いましょう。
手術開始から1時間ごろに体動増加や不定愁訴、落ち着きのなさなどがみられたら要注意です。
特に、手術中はバイタルサインの変動に注意して観察を行い、出血量測定ができないため出血性ショックによる血圧低下に注意しておく必要があります。
もし、TUR症候群の症状がみられたら?
すぐに主治医、麻酔科医に報告します。
術中の管理としては採血で電解質異常がないかを調べ、ボルベン®︎などの代用血漿剤輸液を血管内の容量を増やすため全開で投与します。
フィジオ140®︎などの輸液を普段から使用しているという病院などもあると思いますが、フィジオ140®︎はNaイオンが140Eq/osmol/lであり、ボルベン®︎のNaイオンは154gであるためNaイオンの多いボルベン®︎を使用することが多いです。
手術時間が長い場合や大量の潅流液を使用した場合は、血ガスの測定の結果から電解質異常がないか観察をしっかり行い、容態が落ち着いたことを確認してから退出します。

TUR症候群に注意するために
前立腺の手術では、手術時間が長くなり、施術部位も大きくなるのでTUR症候群のリスクが高くなってしまいます。
また、正確な出血量も把握しにくいため、灌流液の本数をしっかり把握して、適宜血ガス測定などを行うことが大切です。
全身麻酔で眠っている患者さんは訴えることができないため、バイタルサインなどの異常に気が付き、早期に対応することが求められます。
泌尿器科の手術の勉強にオススメ
泌尿器科では、TURなどの手術が増えているという病院も多いと思います。
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開腹手術から腹腔鏡、TURの手術までが網羅されています。